24才の夏休み

僕の一人称の世界へようこそという感じです

【和訳】FASTER / MANIC STREET PREACHERS

1994年6月6日リリース、最高16位(全英シングルチャート)

変化球的フレーズに始まり、粗めの歪みでザクザク刻むギター。下ではAメロ終わりまで同じ音程弾きっぱなしの不穏なベース。ドラムの8ビートと簡素なフィルインの音はカラカラに乾いて疾走していく。そして一言一言力強いけど、どこか吐き捨てるような歌。曲はAメロ・Bメロ・サビをきっちり2回だけ繰り返す。最後は挑発するように音を外したギターソロの後、感情を吐露して終わる。

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さくっと和訳を読みたい場合、直下の
・ファスター/ マニック・ストリート・プリーチャーズ をクリック。

はじめに

勢いも緊張感も最後まで途切れなくて、聴くといつも高まってしまう。ギターのリッチーがほぼ詩作専門、演奏を苦手にしていたことで、音楽的には3ピースバンドに近かったマニックス。けど、Fasterはそれでも成立できるような「切れ」をフィーチャーした曲になってると思う。つたない自分の意見では、これはパンクやロックとしてのマニックスでは一番の曲とまで思っている。

彼らはこの曲のリリース当時、イギリスのヒット音楽番組トップオブザポップス(歌・ドラム以外当て振り)に、テロリストが被る目出し帽をかぶって出演した。当時の社会問題だった組織"IRA"(詳しくない)を支持しているのではと視聴者が思ったという背景がありつつ、番組には2万5000件もの苦情が届いたという。

チラッと自分とマニックスのことを言うと、高校生の時に好きだったアジカンが影響を受けていることで知った。手に取ったのは基本的に問題作と言われるホーリーバイブル。ジャケットの印象どおりのちょっと怖いアルバムだった。どこか刺さるものがあったのか、意味がわからないまま折々に聴いていた。そのうち他の作品も聴いてマニックスの魅力を感じていっている。ライブも去年1回おじゃました。

やること

好きな曲なので自分なりに和訳したいなと。ところで、マニックスの曲はこれ含め歌詞がよく分からない(自分はTOEIC600~700点、英文学などの勉強の経験なし)。単語が見たこと無いものばかりで、きっと本国の人でも意味をつかむのが難しいのではとすら思ってる。実際、この曲の意味を考えようという英語のサイトにも多数異なる意見が寄せられていた。
和訳にあたって、いきなり原文に取り掛かると前述のとおり厳しいので、さっき言ったサイトにあった考察を利用しようと思う。以下では、納得した考察を独断と偏見で選んで和訳したのち、歌詞本体に取り組みたい。いってみよう。

始まる前にひとつ。選んだ意見によればこの曲の解釈にはジョーオーウェルの小説「1984年」の知識が必要だとのこと。映画化もされている。曲の冒頭で入るセリフは映画からサンプリングしたものなので、もしかして映画で必要十分かもしれない。知らない人のためにストーリーを載せておくのでネタバレを嫌わない人は見てみてほしい→完全ネタバレなので注意*1

ある人の考察

「私は、この曲(私の控えめな意見では最高の曲です)は小説"1984"のメインキャラの視点を解釈して作られたものだと思います。

  • 初めの4行は、党についてのウィンストンの意見です。
  • 次の4行はジュリアです(「私はバカで薬物中毒~」)。彼女は青年反セックス連盟のメンバーで、「私はやりたくてやってるの」が意味するのは小説中で彼女がウィンストンを含む党員たちとしばしば行為に及んでいたことです。これは党の方針に反した行動です。
  • サビはウィンストンとジュリアの意見か、ウィンストン個人のものと考えられます。
  • 続く2行、「お前がはじめて自分の身体を見たとき~」は、(拷問のシーンで)オブライエンがウィンストンを脅迫するセリフです。
  • 「彼は私を愛している~」はジュリアです。
  • 「俺は何も信じない~」この曲でもっとも切れのある一行は、党にとって自分の意見は何の価値もないということを知ったウィンストンの言葉です。
  • 次の4行はまたもウィンストンです。夢でも彼は過去に苦しめられています。
  • サビは繰り返しです。
  • 最後のセリフは、1984の登場人物の言葉というよりはリッチー自信の感情だと思います。

 これらは私の理論に過ぎないし、正しいとも限りませんがそれでも......」

これを踏まえて、以下の通り訳してみた。さらに下には原文も載せておく。

ファスター/ マニック・ストリート・プリーチャーズ 

~「純粋さ」が憎い
「善いこと」が憎い
美徳はどこにも存在しなくていい
全て壊れてしまえばいいのに~

俺は建築家だ、でも奴らは破壊者と呼ぶ
俺は開拓者だ、でも奴らは野蛮だという
俺こそが純粋なんだ、でも奴らは異常だという
きみを抱きしめるけど、それ以上に俺は思想こそが恋しい

わたしはバカで薬物中毒、処女で、ぼろぼろなの
冷たい人間のための人生を暖かいだなんて、彼らはまるでトカゲみたいね
自己嫌悪は自分の妄想で、ねぇ、私はやりたくてやってるの
浄化された・悔い改めた者にだけ忠実な道徳

俺はメンサ、ミラーそしてメーラーよりも強く
プラスとピンターを吐き出した
俺は奴らがきっと後悔することのすべてだ
(歴史の)綴り方を学ぶことを押し流す「真実」

お前が初めて自分の体を見たとき、裸で泣く
肌はぼろぼろ、臭い息、めちゃくちゃだぞ
彼はわたしを本当に愛してる、と呟くそばから無音の孤独の中で体力が奪われていく
俺は何も信じないと言ったが、その意見すら価値がないんだな

眠っていても俺の考えは隠すことが出来ない
影は汚れていて、そして偽の鏡をあまりにも多くの人間が悟って受け入れる
誰かが釘のように立ち上がったとしても潰されるだろう
俺はこれまで自分に正直すぎたらしい、他の奴らのように嘘をついて生きなきゃな!

俺はメンサ、ミラーそしてメーラーよりも強く
プラスとピンターを吐き出した
俺は奴らがきっと後悔することのすべてだ
(歴史の)綴り方を学ぶことを押し流す「真実」

本当に簡単に屈服してしまうものだな、人間は何でも破壊する
本当に簡単に屈服してしまうものだな、人間は何でも破壊する
本当に簡単に屈服してしまうものだな、人間は何でも破壊する
本当に簡単に屈服してしまうものだな、人間は何でも破壊する

Faster/ Manic Street Preachers

~I hate purity
Hate goodness
I don't want virtue to exist anywhere
I want everyone corrupt ~

I am an architect, they call me a butcher
I am a pioneer, they call me primitive
I am purity, they call me perverted
Holding you but I only miss these things when they leave

I am idiot drug hive, the virgin, the tattered and the torn
Life is for the cold made warm and they are just lizards
Self-disgust is self-obsession honey and I do as I please
A morality obedient only to the cleansed repented

I am stronger than Mensa, Miller and Mailer
I spat out Plath and Pinter
I am all the things that you regret
A truth that washes that learnt how to spell

The first time you see yourself naked you cry
Soft skin now acne, foul breath, so broken
He loves me truly this mute solitude I'm draining
I know I believe in nothing but it is my nothing

Sleep can't hide the thoughts splitting through my mind
Shadows aren't clean, false mirrors too many people awake
If you stand up like a nail then you will be knocked down
I've been too honest with myself I should have lied like everybody else

I am stronger than Mensa, Miller and Mailer
I spat out Plath and Pinter
I am all the things that you regret
A truth that washes that learnt how to spell, learnt to spell

So damn easy to cave in, man kills everything
So damn easy to cave in, man kills everything
So damn easy to cave in, man kills everything
So damn easy to cave in, man kills everything

 

おわりに

どうだろうか。感想として、この曲のモチーフが「1984年」説は濃厚だと改めて思った。そもそも冒頭のサンプリングが映画からだし、歌詞も物語世界の比喩ととれる箇所が多かった。至らない部分があったような気はするけど、書いているあいだ楽しめて良かった。しかし、サビの頭2行は何を意味してるのか本当に分からない。名前が挙げられている作家をまったく読んだことがないのが致命的だ...... ここだけ歌詞に意味がないとは考えづらいし、自分はこのありさまなので誰か思ったことがあれば教えてください。
歌詞の言葉の端々から意味をつかもうとして考えた曲の一番大きなテーマは、「外からの影響で染まってしまう」是非を問うことじゃないかなと。象徴的な歌詞を抜き出す。

・冷たい人間のための人生を暖かいだなんて、彼らはまるでトカゲみたいね
・浄化された・悔い改めた者にだけ忠実な道徳
・俺はこれまで自分に正直すぎたらしい。奴らのように嘘をついて生きなきゃな!

2017年現在、日本における思想統制みたいなことはどれほど実感としてあるだろうか。流れ的にはアメリカナイズ、個人主義の方向に進んでいる気もする。でも日本に確かに存在する集団主義が、流れの中で浮き彫りになっているのかもしれない。この曲が出たころや、小説「1984年」が出たころはどんな状況だったのかな。わからない。でもよりソフトな形でも「何かに染まる」ということは、集団の中で生きる以上ついて回るものかなって。そこでの葛藤は普遍的じゃないか。

あと補足的に、Fasterというタイトル、「より速い」ともうひとつ「絶食する」という意味があると初めて知った。これについての見解を述べたい。社会がスピーディに変わっていく中で、それに合わせる?それともインプットをすべて拒否する?っていう二つの意味がかかってるんじゃないだろうかと思った。いずれにせよ極端だとは思うなあ。自分で言っておいてなんだけど、もっとその間に選択肢があるような気はする。でも自分を変えるのは確かに難しいことで、そこのところに改めて共感できた。

これらは私の理論に過ぎないし、正しいとも限りませんがそれでも......

 

 

参考

  1. http://www.azlyrics.com/lyrics/manicstreetpreachers/faster.html 歌詞原文
  2. Manic Street Preachers - Faster Lyrics | SongMeanings 歌詞の意味を考えるフォーラムサイト、英語
  3. 和訳 Fasterは無いけど"The Holy Bible"の収録曲を膨大な注釈と共に和訳されているので、このアルバムが好きなら必見
  4. ファスター / マニック・ストリート・プリーチャーズ 1994/6/6 FASTER - Manic Street Preachers: 日刊ろっくす ROCKS(v BLOGS) 曲冒頭のサンプリングの出典(1984年)、作家のファーストネームの推察、和訳そのものと、かなり参考にさせてもらった
  5. Manic Street Preachers - Faster (Top Of The Pops 1994) - YouTube 目出し帽をかぶってFasterを演奏した動画

 

*1:作品の舞台となるオセアニアでは、思想・言語・結婚などあらゆる市民生活に統制が加えられ、物資は欠乏し、市民は常に「テレスクリーン」と呼ばれる双方向テレビジョン、さらには町なかに仕掛けられたマイクによって屋内・屋外を問わず、ほぼすべての行動が当局によって監視されている。
ロンドンに住む主人公ウィンストン・スミスは、真理省の役人として日々歴史記録の改竄作業を行っていた。物心ついたころに見た旧体制やオセアニア成立当時の記憶は、記録が絶えず改竄されるため、存在したかどうかすら定かではない。スミスは、古道具屋で買ったノートに自分の考えを書いて整理するという、禁止された行為に手を染める。ある日の仕事中、抹殺されたはずの3人の人物が載った過去の新聞記事を偶然に見つけたことで、体制への疑いは確信へと変わる。「憎悪週間」の時間に遭遇した同僚の若い女性、ジュリアから手紙による告白を受け、出会いを重ねて愛し合うようになる。また、古い物の残るチャリントンという老人の店を見つけ、隠れ家としてジューリアと共に過ごした。さらに、ウインストンが話をしたがっていた党内局の高級官僚の1人、オブライエンと出会い、現体制に疑問を持っていることを告白した。エマニュエル・ゴールドスタインが書いたとされる禁書をオブライエンより渡されて読み、体制の裏側を知るようになる。
ところが、こうした行為が思わぬ人物の密告から明るみに出て、ジューリアと一緒にウィンストンは思想警察に捕らえられ、愛情省で尋問と拷問を受けることになる。彼は、「愛情省」の101号室で自分の信念を徹底的に打ち砕かれ、党の思想を受け入れ、処刑(銃殺)される日を想いながら“心から”党を愛すようになるのであった。

- Wikipedia1984年(小説)」より